TARKY TOSHIMA

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Invention のための 23 の Variations(2008)

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駅の自動改札が人間に牙を剥きはじめた。

挟まって血まみれになるサラリーマンやOLが続出したのだ。

それはあたかも自動改札によるテロの様相を示していたという。

駅員がなおそうとすると、自爆し、新たに設置した自動改札もまた牙を剥きはじめる。

「このままでは電車の意味がなくなってしまう」

そう考えた駅員たちはみずからが自動改札にはさまっているあいだにお客さんを通すという自己犠牲にでたのだった。

血まみれの駅員を踏み越えて電車に乗り込むお客さんたち。

電車の床が赤一色に染まる。

そのため革マル派が疑われ、警察に濡れ衣をきさせられた。

「こんなに赤くするのは彼ら以外に考えられない」

というのが警察庁長官のコメントだった。

しかしいくら革マル派を逮捕しても自動改札はやむことなく人間を攻撃し続けた。

いつしか自動改札のまえに駅員たちの屍体がうずたかく積み上がり、その場所は『聖者の丘』と呼ばれるようになったという‥‥

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家のドアノブが人間に牙を剥きはじめた。

あけようとして血まみれになる小学生や主婦が続出したのだ。

それはあたかもドアノブによるテロの様相を示していたという。

お父さんがなおそうとすると、自爆し、新たに設置したドアのドアノブもまた牙を剥きはじめる。

「このままでは部屋の意味がなくなってしまう」

そう考えた不動産会社社員たちはみずからがドアノブをあけているあいだにお父さんを通すという自己犠牲にでたのだった。

血まみれの社員を踏み越えて部屋に入り込むお父さんたち。

家の床が赤一色に染まる。

そのため全共闘世代が疑われ、警察に濡れ衣をきさせられた。

「こんなに赤くするのは彼ら以外に考えられない」

というのが警察庁長官のコメントだった。

しかしいくら全共闘世代を逮捕してもドアノブはやむことなく人間を攻撃し続けた。

いつしかドアノブのまえに社員たちの屍体がうずたかく積み上がり、その場所は『ゴルゴタの丘』と呼ばれるようになったという‥‥

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人間が家のドアノブに牙を剥きはじめた。

あけようとしてドアノブを握りつぶしてしまう人間が続出したのだ。

それはあたかも人間によるテロの様相を示していたという。

大家がなおそうとすると、自爆し、新たに入居した人間もまた牙を剥きはじめる。

「このままでは右手の意味がなくなってしまう」

そう考えた大家はみずからがドアノブを守っているあいだに入居者を通すという自己犠牲にでたのだった。

血まみれの大家を踏み越えて部屋に入り込む人間たち。

家の床が赤一色に染まる。

そのため家賃は下がり続け、大家は世界的な規模で減少していく一方だった。

「やはりドアノブは人間にははやすぎたか‥‥」

というのが有史以来人類を見守り続けてきた宇宙人のコメントだった。

人間はやむことなくドアノブを攻撃し続けた。

いつしか地球上のドアノブが破壊され、一切のドアが開けられなくなる日が来るだろう。

「愚かな‥‥自分で自分の首を絞めるとは‥‥」

というのが有史以来人類を見守り続けてきた宇宙人のコメントだった。

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ドア信子が家の夫に牙を剥きはじめた。

寝ようとして夫を握りつぶしてしまうドア信子が出現したのだ。

それはあたかも信子によるテロの様相を示していたという。

夫が寝ようとすると、にぎりつぶし、新たに結婚した夫もまた握りつぶされる。

「わたしの乳首をドアノブ扱いした罰よ!」

信子はそう叫んでは夫を握りつぶしていった。

「なぜ俺がこんな目に‥‥」

握りつぶされた夫は妻になり、自分の夫も同じ目にあわせはじめた。

そうして夫はやむことなく妻になり続けたという。

いつしか地球上の夫は破壊され、一切の子どもが生まれなくなる日が来るだろう。

「愚かな‥‥自分で自分の首を絞めるとは‥‥」

というのが有史以来人類を見守り続けてきた宇宙人のコメントだった。

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おばあちゃんが大根を漬けはじめた。

寝ようとする前に大根を漬けはじめるおばあちゃんが出現したのだ。

それはあたかもおばあちゃんによるテロの様相を示していたという。

おばあちゃんは寝ようとすると、大根を漬けはじめ、新たに畑からとれた大根もまた漬けられていく。

「わたしの乳首をドアノブ扱いした罰よ!」

おばあちゃんはそう叫んでは大根を漬けていった。

握りつぶされた大根はたくあんになり、出荷されていった。

そうして大根はやむことなくたくあんになり続けたという。

いつしか地球上の大根は漬けられ、一切の大根がたくあんになる日が来るだろう。

「愚かな‥‥自分で自分の首を絞めるとは‥‥」

というのが有史以来人類を見守り続けてきた宇宙人のコメントだった。

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家の夫が念願のマイホームに火をつけはじめた。

「あなた!なにをやってるんですか!」

「信子…おれはな、この日のためにおまえと結婚し、こどもをもうけたのだ」

夫はこちらを振り返らずに、言った。

炎が赤く夫の頬を照らす。

「パパやめてー!」

まだ幼い娘は泣きながら夫にしがみついた。

それはあたかも夫によるテロの様相を示していたのだった。

「まだローンも残ってるのに…」

私は、燃えあがり、すぐに焦げた木材の墓場になるだろう、一日いただけのマイホームを見て、思わずそう口走った。

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サラリーマンが会社に行かなくなった。

起きた直後に会社に行こうとするサラリーマンがいなくなったのだ。

それはあたかもサラリーマンによるストの様相を示していたという。

いつしかサラリーマンがこの地上からいなくなるのではないか、という声が巷に溢れはじめた。

「これは早急に手を打たねばなりません」

というのが内閣総理大臣のコメントだった。

そうしてうたれた対策が、家族を人質にとり、出勤しなければ会わせないという「幸せ家庭計画」だった。

しかしサラリーマンは家庭を省みず、ひたすら仕事を拒否し続けた。

「家庭などいらない。我々が要求するのは真の自由だけだ」

という声明が発表され、世界のサラリーマンが団結したのだった。

一方OLたちは、会社に行き続けた。

OLのみで会社を立ち上げ、世界を牛耳る財界人の半数近くが女性になったという。

サラリーマンはマンでしかなくなったが、OLはOLのままだったという。

「サラリーという称号が取り戻したければ、会社に戻るがいい」

世界のマンたちにOLがこう呼びかけたという。

サラリーマンが会社に行きはじめた。

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外人が英語を喋らなくなった。

生まれた直後に英語を喋ろうとする外人がいなくなったのだ。

それはあたかも外人によるストの様相を示していたという。

いつしか英語がこの地上からなくなるのではないか、という声が巷に溢れはじめた。

「これは早急に手を打たねばなりません」

というのが内閣総理大臣のコメントだった。

そうしてうたれた対策が、外人を英会話教室に通わせ、英語を喋らなければ強制退去という「幸せ英会話計画」だった。

しかし英会話教室の先生も外人だったので、この計画は失敗したという。

一方日本人は、英語を喋り始めた。

外人は人でしかなくなったが、日本人は日本人のままだったという。

「外という称号が取り戻したければ、英語を喋るがいい」

世界の人たちに日本人がこう呼びかけたという。

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「ズボン」のことを「パンツ」と皆が言い始めたのはいつからだっただろうか?

しかもイントネーションを「パ(ド)ン(ド)ツ(ド)」と全て同じ音程で発音しはじめたのは?

それはまるでパンツによる革命の様相を呈していた。

いままでの「パンツ」はどうなってしまうのだろう、と思っていたら、それらは細分化して「ブリーフ」「トランクス」等とよばれるようになったのだ(尤も前からも呼ばれていたが)。

「下着」としての「パンツ」概念はこの地上から消えたのだろうか?

「私はパンツをはかない主義なので関係ありませんが、これは早急に対策をとらねばなりません」

というのが内閣総理大臣のコメントだった。

世界中の「パンツ」はこの革命の成就を喜んだが、「ズボン」は自らの抹消を受け入れられなかった。「パンツ」対「ズボン」の階級闘争は、ひとまず「パンツ」に軍配が上がったのだ。

「我々はまだ細々とおばさんたちを中心に生き延びている‥‥待ってているがいい!パンツよ!」

おばさんたちの語彙の中で生き残った「ズボン」たちは、こうして密かに反動的反革命運動を目論んでいると言う‥‥

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北九州の子どもたちが、「九州は南にあるのに北がつくのはおかしい」と言って親たちを困らせはじめた。

しかもイントネーションを「き(ド)た(ド)き(ド)ゅ(ド)う(ド)し(ド)ゅ(ド)う(ド)」と全て同じ音程で発音しはじめたのだ。

それはまるで北九州の子どもたちによる革命の様相を呈していた。

いままで「北九州」に無自覚だった大人たちも、子どもたちの指摘によって覚醒したのだった。

「このままでは北九州が無くなってしまいます。早急に手を打たなければなりません。アッ!西郷隆盛!」

というのが大分県知事のコメントだった。

だが北九州がおかしい、という者はどんどん増えていき、ついには「北九州」という語を使う者は知事だけとなった。

彼の周りの半径1mが「北九州」の最後の領域として残っていた。

どうしても「北九州」に観光に行きたい人間は、知事に密着するツアーを組んだという‥‥

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北朝鮮がさらに分裂して「北北朝鮮」と「北南朝鮮」になった。

それはまるで北朝鮮による革命の様相を呈していたという。

さらに右金正日と左金正日による会談が行われたが、双方がまったく逆の主張をしたため、交渉は決裂したのだった。

北北朝鮮は恐ろしい独裁国家だった。右金正日によって全人民の家、職場に監視カメラがつけられ、軍隊の兵士数が人口より多かった。

一方北南朝鮮は北朝鮮がいささか資本主義寄りになった感じの国だった。左金正日の「社会主義市場経済」政策によってマクドナルドができたという。

ドナルドは赤いので特に左金正日のお気に入りだった。

「む。そういえばサンタクロースは考えてみれば社会主義者ではないか?」

そこでクリスマスの日には左金正日がサンタの扮装をしてその年功績のあった人民の靴下になにかしら入れるのだった。

もっとも物資が少ないので、最後のほうは靴下に靴下をいれたという。

さて世界各国は北北朝鮮と北南朝鮮をなんとか和解させたいと考えた。

アメリカの策略により、鏡越しに右金正日と左金正日は会談をすることになった。すると右金正日は左金正日にとって左金正日になり、左金正日は右金正日にとって右金正日になったので、意見はあったという。

だが左金正日にとっての右金正日は左金正日と同じ事をいい、右金正日にとっての左金正日は右金正日と同じ事をいったので結局何も変わらなかった。

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「我々の世界などトランプと同じ、キングはひっくり返ってもやはりキングであるように、だれが勝者になったとしても変わるのは上か下かだけなのだ。だから革命など意味を為さない」

というのが大貧民の自説だった。

それは大貧民による革命の様相を呈していたという。

「それならば大貧民を反・富豪として、そして大富豪を反・貧民として定義しましょう。これによりお互いはお互いの鏡になり、自分たちではなにも意味しないことになります。したがって両者ともに存在しないことになるのです」

「しかしそれが正しければ平民はどうなります?反・平民という存在はなかなか考えがたい。大富豪か大貧民でしょうか?いや彼らはそうではないでしょう。すなわち中間項には鏡は存在しない‥‥」

「ならば実質的には存在しない反・平民を考えてみましょう。定義は全て否定形によって行われます。すなわち『反・平民は中流階級ではない‥‥』などです。もちろん『反・平民は反・富豪でも大富豪でも反・貧民でも大貧民でもない』という定義付けも可能でしょう」

「しかしそれでは何も意味しないのではないですか?」

「人は何も意味しないものを実体化させることができます。勿論あくまで概念のうえでの話ですが‥‥」

そこに『反・平民』がやってきた。

「いや、私は確固として存在している」

それは、仕事においても個人としても、多額の負債に追われている社長だった。

「わーい存在していたー」

「おめでとー」

「おめでとー」

みんなが一斉に拍手しはじめた。

それはオチに対する革命の様相を呈していたという。

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軍需産業のボスが逆ミサイルの開発に成功したという。

「これは発射ボタンを押すと10分以内に我が国に落ちてくるという画期的なミサイルです」

それを聞いた合衆国の軍人たちは席から立ち上がって口々に言った。

「それは一体何の意味があるのかね?」

「それは一体何の意味があるのかね?」

「それは一体何の意味があるのかね?」

「それは一体何の意味があるのかね?」

「それは一体何の意味があるのかね?」

「まずひとつにはテロの自作自演に非常に効果的です。更にこれを普通のミサイルとして売ることで反アメリカ勢力を自滅させることができます」

「なるほど」

そう言ってアメリカ大統領は逆立ちをした。すると他の者たちも机に乗って逆立ちをしはじめた。

「よし!逆ミサイルを大量にイスラム諸国に売り飛ばすのだ!」

血が逆流して真っ赤な顔になりながらも大統領は上機嫌で指令を下した。

「わーい」

「わーい」

「おめでとー」

「おめでとー」

彼らは逆立ちしたまま拍手しようとして、全員机から転がり落ちた。

「アハハ、イッケネー」

だがこのとき彼らは気づいていなかった。

逆ミサイルをさらに逆にして飛ばせばそれらは全てアメリカに向かってくるということに。それはまさしく世界帝国に対する革命の様相を呈していたという‥‥

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「おじいちゃんが5人いたりいなかったりィィィィ!!!」

ミサイルにおじいちゃんおばあちゃんを縛り付けて飛ばす「迎撃反対作戦」が開始された。

しかしそのプロジェクトの中心となったイタリア長介博士がわけのわからないうわ言を呟くようになったのだ。

「おじいちゃんが5人いたりいなかったりィィィィ!!!」

最初は上滑り気味のギャグだと思っていた研究員たちも、博士にはなにかが見えているのではないか、という疑いを胸中に抱く様になったのだった。

「飛ばされたおじいちゃんが5人くらい現れたり消えたりするのではないか?」

「ではなにかね?イタリア博士には幽霊がみえているとでもいうのかね。そんな非科学的なことを言っていてはいけないよ君。あれはおじいちゃんおばあちゃんを縛り付けて飛ばすミサイルを開発してしまったことによる自責の念から幻覚が見えているのだよ」

というのが精神分析医のコメントだった。

そうして対策をうとうとしたが、「ミサイルはもうできてるし、まあいいんじゃない?」という上層部の判断によってなあなあになったという。

その後革命が起こり、おじいちゃんミサイルという非人道的兵器を開発した責任をとらされるため、民衆たちに捕まったイタリア長介博士。彼が望んだ死刑の方法は、自分の開発したミサイルに縛り付けて飛ばされることだったという。

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おばあちゃんがアイ・コンタクトをとりはじめた。

アイ・コンタクトで異星人とのコンタクトをとるおばあちゃんが激増したのだ。

「基本的に、異星人とのコンタクトは全て目で行わなければならない。ところでもっともおばあちゃんから遠い概念はなにか?それは『ちんこ』である、という結論に我々は達した」

というのがNASAのコメントだった。

このNASAの公式発表は人々を驚かせた。なによりも「おばあちゃん」と「ちんこ」の関係についてNASAがその見解を明らかにしたのは初めてのことだったからだ。

異星人はおばあちゃんとアイ・コンタクトするだけで特に何もしなかったので、「里帰りしたときにいつもいる、なんか変わった体型の人」というだけの存在になった。

だが、ある日全世界のおばあちゃんが空へと浮かび上がり、消えていった。

夏の夜。実家に帰ってきた雅夫の家族は、線香花火の弱い光を見ながら、おばあちゃんのことを思い出していた。

「そういえばおじいちゃんが言っていたよ。おばあちゃんは竹を切ったときに、なかから赤ん坊としてでてきたんだ、と‥‥」

「じゃあ、おばあちゃんは生まれてきたところに帰ったんだね‥‥」

「いや、それは無理があるぞ、雅夫」

雅夫の父はそう指摘したという。

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スイスの時計職人はこう指摘したという。

「24時まで目盛りがない時計はおかしい」

「そうだろうか?別に12時まででもいいんじゃないか?ジョゼフ」

「いやだめだ。部屋に閉じこもって生活が乱れている人間は、八時でも朝の八時なのか夜の八時なのかわからない。そうだろう?マイケル」

冬の朝。時計職人はとうとう24まで目盛りがある時計を開発したのだった。

だが、24時という時間は存在しないということに、彼は気がつかなかった。

存在しないはずの時間を存在させてしまったことにより、彼は「失われた時の技師」と呼ばれるようになった。

この時計職人の発明は人々を驚かせた。なによりも「24時○分」を存在させたのは彼が初めてだったからだ。

「彼があたらしく時を造ったことにより、一日が一時間ほど増えた様な気がするようになった。ところでもっとも時計から遠い概念はなにか?それは『ちんこ』である、という結論に我々は達した」

というのがNASAのコメントだった。

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「エレベーターが六階に止まったり止まらなかったりィィィィ!!!」

いつかエレベーターが降りる用と昇る用に分けられる日が来るのではないか、そんな予感に慄く甲斐さんは、六階に止まったり止まらなかったりするエレベーターに乗って安心するのだった。

「まだ分けられていない、まだ分けられていない」

そう独り言を呟いて自分を安心させる甲斐さん。

「エレベーターがエスカレーターの様になったらどうしよう」

「エレベーターエスカレーター化計画」がどこかで進んでいるのではないか、そんな疑いが彼の頭からは片時も離れない。

「エレベーターはエスカレーターじゃない、だから大丈夫ですよ」という精神科医の言葉も耳を素通りし、日増しに不安は高まっていくばかりなのだ。

「私にだけわかっている事実なのだ。政府はこの計画をひた隠しにしている」

というのが彼の持論だった。

彼は政府に対する異議申し立てとして、エスカレーターに、客が昇り降りを自由に変えられるよう細工した。

世界中が大パニックに陥り、これは人間にエスカレーターが牙を向き始めたのではないか、といぶかしむ向きもあったが、犯人として甲斐さんが逮捕されたため、騒ぎはすぐに静まったという。

彼はテロの容疑で死刑に処せられることになった。彼の最後の言葉は、「甲斐は死んでも階は死なない」だったという。

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アウトドアは、人間をひたすら外に追い出そうとするドアだった。

「はいったと思ったら外だったあ!」

と人々を驚かせたものだ。

一方インドアは、人間をひたすら中に追いやろうとするドアだった。

つまり現在地球にあるドアは、全てこの両者の中間にあるドアだ、ということになる。まあ、シーソーゲームのようなものだよ、両者が均衡をたもっているからこそそれらは0になる。すなわち実際には存在しなくなる、というわけだ。我々の住む宇宙もこれと同じなのだ。とホーキングはかせは機械の声で言った。というか彼は機械のほうが本体で、人のほうはカモフラージュであるらしい。

宇宙人にさらわれてキャトル・ミューティレーションされ、そうなったのだ。

「大槻教授なんて大っ嫌いだー!」

というのが彼の口癖だった。

「機械はいいぞう。飯を食う必要がないし、なんでも機械の調子のせいにできるからね」

だが、今のホーキングはかせは五号目だ、ということは本人は知る由も無かった。

そして、大槻教授が実はホーキングはかせを改造した張本人だ、ということも。

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節分の日に、豆をなげつけた相手が、本当の鬼だった。鬼はすでに父を食い殺し、鬼のお面をつけてあたかも父であるかのように僕らを騙したのだ。

「鬼を甘く見ていたようだな、人間ども」

鬼はつけていた面をゆっくりと外しながら、そう言った。

「さあ、本当に鬼は外にでていくかどうか、その豆を投げつけてみるがいい」

僕らは何度も何度も、鬼に豆を投げつけた。泣きながら。

鬼は薄笑いを浮かべながら、こちらに向かってきた。

弟の頭を鷲摑みにし、そのまま口まで運ぶ。鬼の顎の上で、弟の腕がぷらぷらとゆれている。鬼はそれを噛み千切った。畳に弟の右手が落ちた。

「ふ、福は内、福は内」と腰が抜けたままの母は一点を凝視しながら壁に豆を投げつけていた。

鬼は母の首をもち、ゆっくりと口の中に入れた。

畳が赤一色に染まった。

「前から気になっていたんだが」

鬼は最後に残った僕に喋る。

「福は内、といって豆を投げつけるとき、あれはなにがしたいんだ?百歩譲って鬼ならわかる。対象があるからな。しかし福というものは存在しない。しかもそれに豆を投げつける、ということは福を追い出しているんじゃないか?」

僕は何もいえなかった。

「そんなことをしてるから、俺が来たのかもしれないな」

鬼は僕の頭をつかんで、口にもっていった。

そのとき僕は、鬼にものどちんこはある、ということに気がついたのだ。

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彼のリストカットはすごかった。あまりのすごさに人々は彼を「リストカット界の切り裂きジャック」と呼ぶようになるほどだった。

「だめだだめだ!そんなことじゃ一流のリストカッターにはなれないぞ!」

彼のひらいた「リストカット教室」にはたくさんの生徒たちが毎日リストカッターを目指して汗を流すのだった。

サンドバッグをカッターひとつでずたずたにする、鏡の前でのシャドウリストカットなど、厳しい訓練に文句も言わずひたすら練習に励むリストカッターの卵たち。

教室の床に滲んだ血のあとがその過酷さを物語っていた。

日本人のリストカッター代表として彼は黒人の世界チャンピオンに挑んだ。まずリストカットの基本的な攻撃として血しぶきでの目くらましがある。これは先にきまったほうに点数が入る。あとは切るときの手の裁きの美しさを審査員が判定する。

彼のスタイルは徹底的に切りまくり、かつ裁きの美しさをも保つという、きわめて自虐的なものだった。このスタイルを確立したことによって彼は日本において他者の追随を一切許さなかったのだ。

世界チャンピオンは血の量がやたらと多かったので、普通の人間にはとてもまねできない切り方がもともと可能だった。

体格で劣る日本人が、そんなチャンピオンに勝つには死をも覚悟してのリストカットしかなかった。

セコンドはそんな彼を見て涙を流した。

「切れ‥‥切るんだジャック!」

勝敗が決したと同時に彼は真っ白になり、燃え尽きた。

彼は永遠の世界チャンピオンになったのだ‥‥

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「宇宙っていいよね!

光って速いよね!

五十六億七千万年後に人類を救う~

えっ?それってぼくのこと?(弥勒菩薩)」

という曲で鮮烈なデビューを飾ったのは、僕のいとこの安夫だった。

安夫は幼いころから病弱で、よく胃潰瘍になっていたが、そんな安夫が初登場オリコン24位という快挙を成し遂げたのだった。

「大丈夫。五十六億七千万年後には必ず救われるよ」

という主治医(リストカット暦52年)からの励ましによって安夫は体が弱くても頑張って生きてきたのだ。

そんな安夫だったが、さる12月に死んだのだった。

死因はストレスによる胃潰瘍だったという。

彼の歌が再び聴けるのは五十六億七千万年後だ‥‥。

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黒駅員、という存在を知っているものは少ない(なにしろ駅長でさえ知らなかったりするのだから、それも仕方ない話かもしれないのだが)。

この黒駅員は、ホームで電車を待つ乗客に、飛び込み自殺をさせる。

主に中央線に常勤していて、黒駅員は標的をえらぶのだ。

ある日黒駅員の一人がリストラされた。

「勤続30年、その間人々を飛び込ませてきた私の苦労は一体なんだったのだ!」

黒駅員はJR東日本に復讐を誓ったという。

翌日から、中央線のノーマル駅員たちが次々と電車に飛び込み始めた。

「このままでは駅員の意味がなくなってしまう」

そう考えたJR東日本は白駅員を大量に中央線に配属した。白駅員は自らの命とひきかえに飛び込んだ者を蘇生させることが可能だった。

血まみれの駅員を生き返らせばたばたと死んでいく白駅員たち。

線路の上が赤一色に染まる。

そのため革マル派が疑われ、警察に濡れ衣をきさせられた。

「こんなに赤くするのは彼ら以外に考えられない」

というのが警察庁長官のコメントだった。

しかしいくら革マル派を逮捕しても黒駅員はやむことなく駅員を攻撃し続けた。

いつしか線路の上に駅員たちの屍体がうずたかく積み上がり、その場所は『聖者の丘』と呼ばれるようになったという‥‥

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Invention のための 23 の variations

2008 年 / 2017 年

外島貴幸

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