TARKY TOSHIMA

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頭山変奏曲(2010)

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 アリア

 歴史上に存在しなかった名所を作ることができる装置を山下博士は発明した。この装置は右側に観光パンフレット、左側に伝記を入れると、伝記に書かれた人物が作りそうな雰囲気の何かしらが出てくるのだ。例えば五重塔の写真を右に、アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの伝記を左に入れてみよう。ワシントンと言えば子供の頃桜の木を折った呪いで頭に桜が生えてきた事で有名になった大統領である。だが、その話は今は関係がない。この装置で二つがうまい具合にシャッフルされ、『ワシントンの作った五重塔』という実際には存在しない名所が誕生するのだ。この五重塔は桜の木が生えたワシントンが五重に折り重なって聳え立つというものである。当然人が集まり、新たな観光名所になる。博士は世界中の偉人達の伝記と観光パンフレットをシャッフルし、かつて存在しなかった観光名所を作り出していった。『金正日の女神』『信長キャニオン』等である。こうして世界遺産はすごい規模で増えていった。

 ある日博士は、右側に富士山の写真をいれた後、ふとした拍子に蹴躓いて左側の装置に入ってしまった。その瞬間、富士山と博士はシャッフルされ、一体となった。こうして博士山(はかせざん)がこの世に生まれ、観光名所になった。最初のうち、博士山は人が押しかけてくるのも気にせず自室にこもり装置の研究、新名所の創造にうちこんでいた。だがやがて頂上で初日の出を見にこの山に登る人々、わざわざ雪の日に登りに来る者、五合目まで来て帰って行く小学生たちがひっきりなしにおしかけてくるようになった。また空き缶のポイ捨てや不法投棄が徐々に目に付くようになっていき、ボランティアの甲斐もむなしく博士山はとうとう怒りを爆発させた。大噴火を起こしたのである。

 博士活火山となったそれは、溶岩で街中を破壊した。その様子は実況中継され、博士活火山は24時間世界の注目の的になった。プライベートもくそもない生活に嫌気が差した博士活火山はある日ふと思いつき、装置の左側に自ら入ったのだった。

 博士山は再びシャッフルされた。博士山が右側にいれたのは、富士の樹海の写真だった。こうして博士山は樹海と一体化し、訪れるマスコミ達を彷徨わせた。博士山にようやく静かな日々が戻ってきたのだ。しかし博士山自身にとって誤算だったのは、自分が今どこにいるか、自分自身でさえわからなくなってしまったということだった。

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 歴史上に存在しなかった事件を作ることができる装置を木下博士は発明した。この装置は右側に世界史の教科書、左側に伝記を入れると、伝記に書かれた人物が起こしそうな雰囲気の何かしらの事件が起きたことになるのだ。例えばフランス革命が記述された頁を右に、大正期の文学者梶井基次郎の伝記を左に入れてみよう。梶井基次郎と言えば子供の頃桜の木を折った呪いで「桜の木の下には死体が埋まっている」とうわごとを言いはじめた事で有名になった文学者である。だが、その話は今は関係がない。この装置で二つがうまい具合にシャッフルされ、『梶井基次郎の起こしたフランス革命』という実際には存在しない事件が誕生するのだ。このフランス革命は桜の木に隠されている死体を梶井基次郎が掘り返したことでフランスの市民が立ち上がり、アンシャン・レジームを打倒した革命である。こうして世界史は次々と塗り替えられていった。博士は世界中の偉人達の伝記と世界史の教科書をシャッフルし、かつて存在しなかった事件を作り出していった。『第二次一休大戦』『信長人権宣言』等である。こうして世界史的出来事はすごい規模で増えていった。

 ある日博士は、右側に桜田門外の変の頁をいれた後、ふとした拍子に蹴躓いて左側の装置に入ってしまった。その瞬間、桜田門外の変と博士はシャッフルされ、一つの事件になった。こうして桜田門外の博士がこの世に生まれ、世界史はまた書き換えられたのだ。最初のうち桜田門外の博士は水戸藩士が押しかけてくるのも気にせず自室にこもり装置の研究、新世界史の創造にうちこんでいた。だがやがて水戸藩士たちは博士を追い詰めるようになった。また博士もふと気がついたら桜田門外で籠にのっている、ということが起こるようになり、身の危険を感じ始めたという。

 桜田門外の博士はある日ふと思いつき、装置の左側に自ら入ったのだった。

 桜田門外の博士は再びシャッフルされた。右側に入れたのは池田屋事件の頁だった。池田屋に博士が行くと、博士を狙いに来た水戸藩士を新撰組が倒していった。こうして博士は助かり、結局何もおきなかったことになった。だがこの事は、「桜田門外の博士事件」として、新たな歴史を刻んだのだ。

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  歴史上に存在しなかった博士を作ることができる装置を博士博士は発明した。この装置は右側に博士、左側に博士を入れると、博士がつくりそうな雰囲気の何かしらの博士が生まれるのだ。例えば博士を右に、博士を左に入れてみよう。博士と言えば子供の頃桜の木を折った呪いで林檎が頭に落ちてきた事で有名になった博士である。だが、その話は今は関係がない。この装置で二つがうまい具合にシャッフルされ、『博士博士』という実際には存在しない博士が誕生するのだ。この博士博士は林檎が頭に落ちてきたことで桜と林檎の因果関係を発見した博士である。こうして博士は次々と誕生していった。博士博士は世界中の博士と博士をシャッフルし、かつて存在しなかった博士博士を作り出していった。『博士博士』『博士博士』等である。こうして博士博士はすごい規模で増えていった。

  ある日博士博士は、右側に博士をいれた後、ふとした拍子に蹴躓いて左側の装置に入ってしまった。その瞬間、博士と博士博士はシャッフルされ、一つの博士になった。こうして博士博士博士がこの世に生まれ、新たな博士がまた誕生したのだ。最初のうち博士博士博士は自室にこもり装置の研究、新博士の創造にうちこんでいた。だがやがて博士博士博士の内の一人の博士が自分に異論を唱えるようになった。博士博士博士はお互いに論争を始めた。それはいつまでも果てしなく、最後には只の揚げ足の取り合いになったという。研究が全くできなくなった博士博士博士は困り果てた。

 博士博士博士はある日ふと思いつき、装置の左側に自ら入ったのだった。

 博士博士博士は再びシャッフルされた。右側に入れたのは博士だった。こうして博士博士博士は博士博士博士博士になった。だが一人増えたことで余計騒がしくなり、何もかも嫌になった博士博士博士博士は自分のうちの一人に頼んで自分を殺してもらったという。

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 何もかも嫌になって、歴史上に存在しなかった自分に自分を殺してもらったという桜田洋子は、桜の木の下で自分を殺したという。妊娠していた桜田洋子の死体を養分にした桜は、幹に吸収した胎児を成長させた。こうして桜と人間がうまい具合にシャッフルされ、人桜がこの世に誕生した。

 人桜はすくすくと成長し、やがて小学校に通い始めた。人桜は小学校ではサッカーが得意であり、女子からは人気者だった。「桜の癖に生意気だぞ」などとガキ大将からは言われたものだ。ちなみにこのガキ大将は死体を養分にした大将がガキを成長させ、うまい具合にシャッフルされた物としてのガキ大将である。それを逆手にとって人桜は「ガキの癖に生意気だぞ」とガキ大将に言い返したのだった。だが、この噺は今は関係がない。

 人桜は「早く人間になりたい」とよくぼやいていた。大人になったら、ある物とある物を分離させる装置を発明したい、それが小学校の卒業文集に人桜が書いた将来の夢だった。

 苦節三十年、とうとうこの装置を発明した人桜は、ガキ大将を実験台にした。「やめろ、人桜、ぶっとばすぞ」とガキ大将は言ったが、人桜はそれを無視してスイッチを入れた。すると右側からガキ、左側から大将が出てきた。実験は成功したのだ。

 人桜はこの装置に入った。こうして右側から人、左側から桜が出てきた。晴れて人間になれた人は喜んだ。「この桜の前で花見をしよう」と言って宴会を開いた人だが、桜のほうは悔しかった。何故自分は桜のままなのに、人は人になったのだ。怒り狂った桜は酔っ払っている人の養分を根元から吸い始めた。人はミイラのようになり桜に吸収された。こうして人桜は元に戻ったが、せっかく人間になれたのに自分は一体何をやってしまったのだ、と後悔したという。

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 「錯乱坊」という錯乱した坊主が京に現れた。この坊主は歴史上は存在しなかったといわれているが、京を暗躍した坊主である。この坊主は春先になると現れ、桜の下で花見をしている人々を見かけると、「危ない、養分を吸われてしまうぞ!」と注意を促す事で有名だった。人々はそんな坊主を見て鼻で笑ったという。

 またある日、錯乱坊は京の貴族たちにおしかけ、「花見だけは絶対にしてはいけない」と三時間近く懇々と説いた。迷惑千万な貴族たちは、陰陽師をよびだし、錯乱坊の錯乱を取り除くことにした。「やめろ、陰陽師、ぶっとばすぞ!」と錯乱坊は言ったが、陰陽師は無視して術を唱え始めた。術は成功した。「それがしは一体今まで何を‥」と錯乱がとれ、ただの坊になった坊は言った。「こっちにあるのがお主の錯乱じゃ」と陰陽師は指差した。錯乱は黒く、針金を幾重にも重ねたボールのようなもので、動き回り、壁や床を跳ね返った。

 それを見た貴族は、「あな珍しや。この錯乱の前で歌でも詠もう」と言って坊と一緒に歌会を開いた。その間中、錯乱は坊の体に帰りたい様子で、坊の耳の穴から潜り込もうとしていた。鬱陶しくなった坊は、錯乱を手で弾いた。すると壁に跳ね返った錯乱は、そばに居た陰陽師の耳の穴にすぽっと入った。こうして錯乱陰陽師が誕生した。

 錯乱陰陽師は、様々な術を使い、京の人々を錯乱させた。錯乱した京の人々は、「桜に養分を吸われる」と言い始め、花見を絶対にしなくなったという。只一人坊だけは、陰陽師の中に自分の錯乱が入ったままなので、錯乱しなかった。坊は一人で花見に行った。京の人々はそれを見て、「狂っている!」「養分を吸われてしまうぞ」「こいつは錯乱している」等と口々に言った。こうして坊は「錯乱坊」と再び呼ばれるようになったのだった。

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 「錯乱婆」(さくらんばあ)という錯乱したお婆ちゃんが今日、新宿に現れた。このお婆ちゃんは歴史上存在しなかったといわれているが、新宿を暗躍したお婆ちゃんである。このお婆ちゃんは春先になると現れ、桜の下で花見をしている人々を見かけると、「あんまりゴミを捨てると桜の木に呪われるよ」と注意を促す事で有名だった。人々はそんなお婆ちゃんを見て鼻で笑ったという。

 またある日、錯乱婆は都庁におしかけ、「石原慎太郎には都知事の資格が無い」と三時間近く懇々と説いた。迷惑千万な公務員たちは、精神分析医をよびだし、錯乱婆の錯乱を取り除くことにした。「やめろ、精神分析医、ぶっとばすぞ!」と錯乱婆は言ったが、精神分析医は無視してロボトミー手術を行い始めた。手術は成功した。「私は一体今まで何を‥」と錯乱がとれ、ただのお婆ちゃんになった婆は言った。「ここにあるのが貴方の錯乱です」と分析医は指差した。桜色をした脳の前頭葉が切り取られ、置かれていた。

 それを見た公務員は、「これは決して人権侵害ではなく、公共の福祉の一環としての社会活動です」と言って延々と自己弁護し始めた。その間、前頭葉は婆の体に帰りたい様子で、婆の耳の穴から潜り込もうとしていた。鬱陶しくなった婆は、前頭葉を手で弾いた。すると壁に跳ね返った前頭葉は、そばに居た分析医の耳の穴にすぽっと入った。こうして錯乱分析医が誕生した。

 錯乱分析医は、様々な手術を行い、新宿の人々を錯乱させた。錯乱した新宿の人々は「石原慎太郎には都知事の資格が無い」と言い始め、石原の言うことを聞かなくなったという。只一人婆だけは、分析医の中に自分の前頭葉が入ったままなので、錯乱しなかった。婆は一人で石原慎太郎を支持した。新宿の人々はそれを見て、「狂っている!」「養分を吸われてしまうぞ」「こいつは錯乱している」等と口々に言った。こうして婆は「錯乱婆」と再び呼ばれるようになったのだった。

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 「ザ・クローン坊や」というクローンされた坊やが今日、また新しく誕生した。この坊やは歴史上存在しなかったことにされているが、今日で六人目の坊やの誕生である。この坊やは桜が咲く頃になると誕生し、それぞれ『桜一号』『桜二号』等と呼ばれていた。

 ある日、坊やたちは一列に並んで花見に行った。「桜が桜を見るというのか‥」と呟いたのは所長の権田原茂三だった。ちなみに彼の息子がクローン坊やのオリジナルである。権田原茂三は、「息子が不慮の事故で死んだときの代りを作っておきたかった」と理由を尋ねた記者にそう言ったという。

 それを聞いた記者は「それは人権侵害じゃないんですか?」と彼に言った。しかし所長は「彼らにはクローン人権はあるが、人権は無い」といってのけた。

 こうしてクローン坊やたちはすくすくと成長していき、やがて小学校に通い始めた。クローン坊やは小学校ではサッカーが得意であり、女子からは人気者だった。「クローンの癖に生意気だぞ」などとガキ大将からは言われたものだ。ちなみにこのガキ大将はこの発言によって「クローン人権侵害だ」とクローン人権団体から糾弾されることになったガキ大将である。このことがきっかけでガキ大将は後に独裁政権を樹立し、クローン人間を弾圧する政策を発表していった。だが、今はその話は関係がない。

 ある日クローン坊や達は、オリジナルの坊やには人権があるのに、自分達にはクローン人権しかないのは不当だ、と主張し始めた。クローン坊や達はオリジナルの坊やを呼び出し、すごい速度でシャッフルした。見分けがつかなくなった上に、全員が「僕がオリジナルなんだ!」と主張し、誰に人権があるのかわからなくなった。所長は混乱し、「一体誰が死んだら、誰を代りにしたらいいんだ!」と叫んだという。

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 「さくらんぼ」というバラ科桜属の落葉高木、及びその果実が今日、新しく誕生した。この果実は歴史上存在しなかったことにされているが、今日で一千三百六十兆二千七億個目のさくらんぼの誕生である。この果実は桜が散り終わった頃になると誕生し、それぞれ『佐藤錦』『ナポレオン』等と呼ばれていた。

  ある日、さくらんぼたちは一列に並んで出荷されていった。その様子を眺めて涙を流したのは、所長の吉沢だった。彼は自分の息子のようにさくらんぼ達のことを思っていた。そして自分の息子のことはさくらんぼのように思っていた。「彼らが出荷されるのなら息子が出荷されればよかったのに」と吉沢は一人呟いた。

 それを聞いた妻は怒り、「それは人権侵害じゃないですか」と言った。しかし所長は「さくらんぼは息子だから人権はあるが、息子はさくらんぼだから人権は無い」と言ってのけた。

 こうして息子はすくすくと成長していき、やがて小学校に通い始めた。息子は小学校ではサッカーが得意であり、女子からは人気者だった。「息子の癖に生意気だぞ」などとガキ大将からは言われたものだ。

 ある日息子は、家にあったさくらんぼを食べ始めた。自分の息子のように大事にしているさくらんぼを自分の息子に食べられてしまった吉沢は怒った。「何を怒っているんですか、お父さん。僕はこうしてさくらんぼと一体化することで、真の『息子』になるのです」と息子は言った。吉沢は反論できなかった。彼は自分の息子のように思っていたさくらんぼのように自分の息子を思うしかなく、人権を認めざるを得なかったという。

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 名奉行の呼び声が高かった門松菊次郎は、毎日色々な名裁きを見せていた。ある日、自分の息子のように思っていた奉公人の榮太郎(えいたろう)が下手人として捕まった。

 「榮太郎、わしはおぬしのことを自分の息子のように思っていたのに、甚だ残念じゃ」と菊次郎は言った。榮太郎は「僕も僕を自分の息子のように思っていたので、甚だ残念です」と言ってのけた。

 菊次郎はそれを聞いて怒り狂い、「わしの顔に泥を塗ったことに、何の反省も無いのか」と怒鳴った。

 しかし榮太郎は「いえ、そもそも僕は無罪なんです」といい始めた。榮太郎は窃盗罪によってお縄になったのだ。ちなみに盗んだのは赤ん坊だった。母親が「私の息子を返してください!」と隣で叫んだ。「しかしあれは僕の息子でもあるんですよ」と榮太郎は言った。「つまり自分の息子を自分で盗んで何が悪い、ということです」それに対して、「いえ、彼は自分の息子だと思い込んでいるだけです」と母親はいった。「あなたこそ、自分を母親だと思い込んでいるだけだ」と榮太郎は言った。

 門松はしばらく思案した。「よし、刀をもってこい」と言って「これで子供をカットし、ハーフサイズにするので、それぞれ持ち帰れば解決するだろう」と門松は言った。しかしその提案には二人とも普通にひくだけだったという。門松は舌打ちした。

 しばらくして、ふと「自分のことを母親だと思っているかね?」と門松は聞いた。母親は肯いた。そして榮太郎に「自分のことを父親だと思っているかね?」と尋ねた。すると榮太郎は「いえ、自分のことは自分の息子のように思っています」と答えた。それを聞いた瞬間門松は腕をめくって桜の刺青を見せ、「それではお前は父親ではない、この子はこの女の子供じゃ」と言って見得を切り、一件を落着させたのだった。

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 桜のことを考えすぎて頭が爆発しそうになった桜研究の第一人者正男博士は、自分の頭のなかで桜が膨れ上がってきているのを日に日に感じていた。

 「頭の中で、桜がワンワン言ってる!」と言って正男博士は、うつぶせてみせた。正男博士はしかし、本当は桜のことなどどうでもよかった。むしろ桜を研究している自分が好きでしょうがなかったのだ。

 「桜を研究している俺、かっこいい」と常に思い続けていたからこそ、頭が爆発しそうになっても桜の事を研究していられたのである。

 だが、そんな彼にもとうとう限界がきた。ついに頭が爆発したのである。『モルガンの桜平方定理』について考え込んだ彼は、定理の証明が思いつくと同時に、悲しいかな頭を爆発させてしまったのだ。

 その途端研究室に桜の花が舞いちり、一面がピンク色に覆われた。博士は「ぴーぽーぴーぽー」と言い始めた。これは英語の「people」のことではなく救急車のサイレンだと思われる。

 そうして救急車が駆けつけたとき、博士の姿はそこになく、残るのは桜の花びらだけだったという。「博士は桜になったんだ‥」と弟子達は言って、涙を拭いた。こうして『モルガンの桜平方定理』は、未だに誰も証明できていない桜問題であり続けているのだ。

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  頭のことを考えすぎて頭が爆発しそうになった頭研究の第一人者頭山(とうやま)博士は自分の頭のなかで頭が膨れ上がってきているのを日に日に感じていた。

 「頭の中で、頭がワンワン言ってる!」と言って頭山博士は、うつぶせてみせた。頭山博士がこの状態になると、三日はうつぶせたままなので、助手達は無視して待つしかなかった。

 「頭を研究している俺、かっこいい」と言い始めれば、それが回復の兆しだった。助手達はそれを合図に研究を再び開始するのだ。

 だが、そんな彼にもとうとう限界がきた。ついに頭が爆発したのである。『頭の電磁場誘導方程式』について考え込んだ彼は、方程式の解が思いつくと同時に、悲しいかな頭を爆発させてしまったのだ。

 その途端研究室に脳髄が舞いちり、一面がピンク色に覆われた。博士は「おお、のう!」と言い始めた。これは日本語の「脳味噌」の「脳」と英語の「oh,no」をかけているのだと思われる。

 そうして救急車が駆けつけたとき、博士の姿はそこになく、残るのは頭の欠片だけだった。「博士は頭になったんだ‥」と弟子達は言って、涙を拭いた。こうして『頭の電磁場誘導方程式』は、未だに誰も解くことができない頭方程式であり続けているのだ。

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  「頭山姥」が僕の頭に住み着いた。この山姥は大昔一部の女子高生達の間で流行したファッションに身を包み、たまに包丁を持って頭のなかを走り回る。

 「頭の中で、山姥がドタバタ言ってる!」と言って僕は、自分もドタバタ走りはじめた。僕がこの状態になると、頭山姥と自分で追いかけっこをしている気分になり、廻りの者は無視して待つしかなかった。頭山姥に捕まえられたら大変なことになるような気がしたので、本気で逃げ回るのだった。僕は逃げ回りながらも「頭山姥から逃げている俺、かっこいい」と自己陶酔していた。

 だが、そんな僕にもとうとう限界が来た。ついに頭山姥に捕まってしまったのである。頭山姥は僕の上にまたがり、包丁をつきつけてきた。

 「つかまえた」と頭山姥は言った。「はなせ!」と僕は叫んだが、頭山姥は微動だにしなかった。人から見ればただ一人で床に倒れているだけの状態である。

 僕の弟はそんな僕を見て「またか」と言った感じで僕を放ったらかした。だが、頭山姥は弟の存在に気がつくと、弟の方に駆けていった。「逃げろ!弟!」と僕は叫んだが、弟は無視してDSをやっていた。

 頭山姥に捕まった弟は床にぶっ倒れた。「一体なんなんだ?」と弟は叫んだ。弟が見えないのも無理は無い。なにしろ頭山姥は僕の頭の中にいるのだから。

 「つかまえた」と頭山姥は言って、包丁を弟に突きつけた。もしかしてただそれがやりたいだけなんじゃないか、とぼくは考えた。だがこのままのさばらせるわけにはいかない。僕は自分の頭をがんがん叩き始めた。すると頭山姥が苦しみだした。必死に頭を叩き続け、頭山姥がぶっ倒れていく様を、必死で頭を叩き続けたためぶっ倒れていく僕は見たのだった。

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 「自分達がいる世界は、一人の人間の頭の中の世界だ!」という事に気がついた毛利菊蔵は、そのことを世間に知らしめようと頑張った。

 だが誰も本気にする者はおらず、人々は彼のことを馬鹿にした。彼はそれでも自分達の世界は誰かの頭のなかで作られた世界である、と主張することを止めなかった。

 「これを気がつかせるのは不可能なのか」と彼は思った。それならば、せめて自分達の世界を頭の中で考えている者を発見したい、と彼は考えた。「一体だれなんだ‥」その日から彼の旅がはじまった。

 三十年後、彼はようやく「この世界を考えている者」と出会った。それは「頭様」と呼ばれている、頭研究所に保管されていたとてつもなく大きな頭だった。

 「私が今何を考えているか、わかるでしょう。私は貴方の頭の中の存在なんだから」と毛利は言った。「そう、破壊しようとしているのです、貴方の頭の中の虚構の世界で生き続ける者たちに解放を与えるためにね」

 そう言って彼は頭を収納している容器を破壊し、頭を燃やした。「貴様、頭様になんて事を」と研究員達が駆けつけてきたが、彼らは消失していった。彼の周りの世界も、どんどん薄くなっていった。消え行く意識の中、毛利は「頭様は自殺したかったのかもしれない」と考えた。頭様が毛利のことを考えるのを止めれば彼の存在は消え、命を守れたはずだからだ。あるいは、自殺したかったのは自分の方かもしれない。だが毛利がそんな事を考えているうちに、彼は消失した。

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 「髪の毛短め地獄に突き落とされたァァァァ!」と気がついたのは小森だった。彼は床屋で髪の毛を意外なほど短めにカットされてしまったのだ。すぐ伸びるだろう、そう考えていた彼だが、甘かった。髪の毛はいつまでたっても長くならず、短めのままだった。彼はそのことをパーマ界の第一人者、パーマ佐藤に訴えかけた。

 だがパーマ佐藤は鼻で笑うだけだった。「君の髪の毛は確かに短いが、僕の髪の毛はこんなにパーマがかかっているじゃないか」と意味不明な説教を三時間近く懇々とされ、疲れ果てて小森は家路に着いたという。

 「一体どうすれば気がついてくれるのだ」と彼は思案した。彼は、自分を髪の毛短め地獄に突き落とした者の正体を知りたい、と考えた。「一体だれなんだ‥」その日から彼の旅が始まった。

 三十年後、彼はようやく髪の毛短め地獄に自分を突き落とした張本人を見つけた。それは彼の髪の毛を短めにカットした床屋だった。

 「床屋、お前のせいで俺は髪の毛短め地獄に突き落とされたじゃないか」と彼は憤った。「つまり、このままでは髪の毛長め天国に行けない‥そういう事かね?」と異様に髪の毛が長い床屋は答えた。

 「よくわからんがそういう事だ!」と言って彼は床屋をぶっとばそうとした。「君は何もわかっていないな‥」と床屋は呟いた。「何だと?」「どんなに髪の毛を切っても次から次へと伸びてくる‥そんな髪の呪いを一身に受け、その復讐のためだけに床屋になったこの私を!」と彼は叫んだ。「君は髪の毛短め地獄という、だがそうじゃない、髪の毛が伸びることの方が地獄なのだ!」そう言って彼は自分の髪の毛で縄を作り、天井にかけて首を吊った。「これでようやく髪の毛長め天国に行ける‥」と言い残して。小森は、「結局地獄なのか天国なのかどっちだよ!」と一人で叫んだ。

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 「三つの世界がある。頭の下地獄、頭の中俗世間、頭の上天国じゃ」と言い始めたのは頭伝道者の吉雄だった。

 彼は新興宗教「頭教」の教祖として、日夜伝道に励んでいた。「我々は大体、この世に誕生するとき頭から生まれてくる。故に、最初に頭があり、頭は神である」というのが彼の教えだった。

 だが誰も本気にする者はおらず、人々は彼のことを馬鹿にした。彼はそれでも「頭の三世界説」を主張することを止めなかった。

 「愚かな民衆どもめが‥」と吉雄は言った。彼は自分の教えに従う者達を引き連れ、洞穴で共同生活をすることにした。

 やがて彼らは弾圧を受け始めた。「頭教は危険だ」と特に理由も無かったがそんな雰囲気になったので弾圧を受けたのである。

 騎士団に追い詰められ、洞穴に立てこもった彼らは、ついにここまでかと諦めた。洞穴に空いていた穴の中に飛び込んだのである。これは頭教に伝わる正式な死に方だった。頭の下にある地面を逆転させ、頭の上にする。その時初めて天国にいけるだろう―それが頭教の教えだった。

 こうして彼らは死んでいった。だが、彼らにとっての頭の上は、立っているものにとっては頭の下である。こうして彼らが今天国にいるのか、地獄にいるのか、誰にもわからなくなったという。

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 妖怪「アタマフラシ」が田中の家に現れた。この妖怪は普段はカーペットに変身していて、気が付かれないのだが、掃除機をかけると苦しみだし、本性を現すという。

 「いや、吸いすぎ吸いすぎ」と突然カーペットが喋りだすものだから、大抵の人間は驚き、掃除機を止める。それがアタマフラシの狙いだった。

 だが、そんなアタマフラシの吸いすぎ発言を全く無視して、ひたすら掃除機で吸った男がいた。村由菊十郎である。そんな村由に業を煮やしたアタマフラシは、とうとう本性を現した。

 「人が吸いすぎって言っているだろうがああ」とぶち切れたアタマフラシは、本性を現し、村由の頭を逆に吸いはじめた。

 「いや、吸いすぎ吸いすぎ!」と今度は村由が言うことになった。その時この家に田中が帰ってきた。そう、この家はもともと田中のものだったのである。「お前ら人の家で何やってるんだ!」と田中は怒った。アタマフラシは咄嗟の事に驚き、自分の頭を吸いはじめてしまった。「いや、吸いすぎ吸いすぎ!」と三人とも言ったという。こうして自分の頭を吸い終えたアタマフラシは、空に向けて頭を吐き出した。それは天高く上がっていき、空中で弾けて、無数の頭に分裂して地上に降り注いだ。「ママ、きれいな花火があがってるよ」とそれを見た少女は呟いた。

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 空から落ちてきた定規が頭に突き刺さったのは小林だった。この事により小林の身長は30cm伸び、身長がコンプレックスだった彼は嬉しがったという。

  「いや、高すぎ高すぎ」と周りの女の子は若干引いたが、小林にとってはそんな事はどうでもよかった。身長測定の時など、「定規で定規を測っているようなものだな」と測定暦三十年の身体測定士韮沢は言ったものだ。

 ちなみに彼は成長期だった。こうして定規は伸びていき、一ヶ月たつと、34cmの定規になっていた。日に日に定規は伸びていった。

 「いや、高すぎ高すぎ」と今度は自分が言うことになった。そう、この時定規は60cmになっていたのである。そんなある日、空から今度は重りが落ちて来た。その重りは彼の定規に突き刺さり、彼の体重を増やすことになったという。成長期だった彼の定規と重りは日に日に伸びたり、重くなったりしていった。

 ある日とうとう重りの重さに定規が耐えられなくなり、根元からバキッと折れた。すでに彼と一体化していた定規からは真っ赤な血が流れた。

 こうして彼は出血多量で死亡した。彼の遺体は丁重に埋葬されたが、定規と重りはゴミとして捨てられた。

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 自分の家にゴミを撒き散らしたことにより蠅が大発生したのは中村だった。この蠅は、あらゆる場所から発生するので中村は心が折れ、放っておくことにした。すると蠅はどんどん成長していき、物凄い大きさになった。

 この蠅は一つの生命圏を作っていき、蠅だけではなくゴキブリ、ネズミ、カラスを呼び出し、食物連鎖の輪を形成していった。

 だが、あまりにも毎日騒々しく、またマスコミも押しかけてくるようになったため、意を決した中村は家に火をつけた。それ以外に掃除の仕様が無かったからである。

 こうして中村の家は焼け焦げ、屋根が無くなった。だがそれでも頑なに居住権を主張した彼は、そこに住み続けたのだった。

 ある日雨が降り、屋根が無いため物凄い勢いで彼の家は水浸しになった。こうして部屋のあちこちに水が貯まった。ちなみに彼は未だにゴミを捨てようとしなかったため、しばらくもしないうちに、水溜りに色々な生物が発生し始めた。蛙、鮒(ふな)、蟹などである。

 寝ているときに蟹に挟まれたりもし、彼はまたもやぶち切れた。だが水溜りばかりで今度は火を着けようが無かったので、中村は心が折れ、放っておくことにした。そうして中村が死んだ後もこの家を見た者は皆心が折れ、掃除を断念した。

 やがてその水溜りから初めて中村の家の床に上がった生物が誕生した。こうして長い年月が過ぎ、妙に頭の大きい猿が生まれたという。

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 髪の毛を抜いたことによって頭から髪の毛が生えてきたのは田口だった。この毛は、深く根を張って抜こうとすると痛いので、放っておくことにした。すると毛はどんどん成長していき、物凄いアフロになった。

 このアフロに鳥が集まり、小鳥を育て始めた。小鳥達の鳴き声があまりにも騒々しいので、田口は頭を振るのだった。すると小鳥達がピーピー鳴いて、頭から出ようとする。田口はそれを見てほくそ笑んだ。

 だが、あまりにも毎日騒々しく、おまけに糞などをされるので田口は、意を決して髪の毛を全て引っこ抜いた。もう二度と生えないようにレーザー脱毛まで敢行したのである。

 こうして田口の頭には小さな無数の穴が開いたという。

 ある日雨が降り、田口は傘を持っていなかったためずぶ濡れになった。こうして頭に開いた穴に水が貯まった。しばらくもしないうちに、この穴にぼうふらが湧くようになったという。

 今度は蚊が大量に発生し、田口の体のそこらじゅうを刺しまくった。24時間刺されまくり、いつしか田口の全血液を蚊が吸い取っていった。こうして田口の頭では、田口の血によって養われたぼうふらたちが今日も湧いているのだ。

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  さくらんぼを食べたことによって頭から芽が出てきたのは吉岡だった。この芽は、深く根を張って抜こうとすると痛いので、放っておくことにした。すると芽はどんどん成長していき、桜の樹になった。

 この桜に人が集まり、花見をしはじめた。ちなみにこの場所は「頭山」と呼ばれるようになり、新名所として観光パンフレットにも記された。

 宴会する者達があまりにも騒々しい時、吉岡は頭を振るのだった。すると花見をしていた人々が「地震だ」と言って騒ぎ始める。吉岡はほくそ笑んだ。だが、あまりにも毎日人が来るので落ち着けなくなった吉岡は、意を決して樹を引っこ抜いた。こうして吉岡の頭には大きな穴が開いたという。

 ある日雨が降り、吉岡は傘を持っていなかったためずぶ濡れになった。こうして頭に開いた穴に水が貯まり、池になった。しばらくもしないうちに、この池に魚が泳ぐようになったという。

 今度はこの沼に、親子連れや友人同士で釣りに来る者が続出した。「ブラックバスがいない釣り場はいい」と釣りのことはよくわからないがなんとなくそれっぽいことを言ってみたくなった父親は言った。だがこの時子供はあっさりと父親を無視した。

 24時間人が来て、プライベートもくそもない生活に嫌気が差した吉岡は、池に走り出した。こうして吉岡は自分の頭の池に、自分で身を投げて死んだという。

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 アリア

 歴史上に存在しなかった話を作ることができる装置を外島博士は発明した。この装置は右側に話、左側に伝記を入れると、伝記の人物が作りそうな雰囲気の何かしらの話が出てくるのだ。例えば幸田露伴の五重塔を右に、アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの伝記を左に入れてみよう。ワシントンと言えば子供の頃桜の木を折った呪いで頭に桜が生えてきた事で有名になった大統領である。だが、その話は今は関係がない。この装置で二つがうまい具合にシャッフルされ、『ワシントンの作った五重塔』という実際には存在しない話が誕生するのだ。この五重塔は桜の木が生えたワシントンが五重に折り重なって聳え立つべくがんばるというものである。博士は世界中の偉人達の伝記と話をシャッフルし、かつて存在しなかった話を作り出していった。『罪と一休さん』『キュリー夫人の恋人』等である。こうして話はすごい規模で増えていった。

 ある日博士は、右側に頭山をいれた後、ふとした拍子に蹴躓いて左側の装置に入ってしまった。その瞬間、頭山と博士はシャッフルされ、一体となった。こうして博士山(はかせやま)がこの世に生まれた。博士山は一つの話を語り始めた。というかそれしかできなくなった。その様子は実況中継され、24時間世界の注目の的になった。だが、プライベートもくそもない生活に嫌気が差した博士山はある日ふと思いつき、装置の左側に自ら入ったのだった。

 博士山は再びシャッフルされた。博士山が右側にいれたのは、自分が今話している話だった。こうして博士山は、自分が今話している話の中に消えていき、プライバシーを回復したという。

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